近頃マンガの世界では異世界・転生ものが大流行しています。最近も、薬学の教授である主人公が中世的な異世界に転生して、チート能力と知識から黒死病と戦うというアニメがありました。
今週のNatureにEvolution of immune genes is associated with the Black Deathという論文がありました*。現実の世界での1346年から1353年にかけて北アフリカとユーラシア大陸で7500万-2億人が死亡し人類史上最も死亡者が多いパンデミックとして記録されている、ペスト菌が原因の腺ペストを扱っています**。ただ疾患の詳細な区別は難しいからか黒死病という単語を使っています。
黒死病の前、最中、後の 2 つの異なるヨーロッパ人集団に由来する 206 の古代 DNA 抽出物から免疫関連遺伝子の周辺の遺伝的変異を特定し、黒死病の流行った期間に選択された可能性のある遺伝子座を特定しています。有力候補として選ばれたバリアントの 1 つであるアリル rs2549794 は、ERAP2遺伝子の完全長の転写産物の産生を増加させることで、ペスト菌に対するサイトカイン応答をより変動させ、またマクロファージの細胞内ペスト菌を制御する能力の向上にも関連しているそうです。このアリルは今日の自己免疫疾患(クローン病)に対する感受性の増加にも関連しているとのことです。
現在の疾患に対する感受性は、過去のいくつかのパンデミックの時に、特定の免疫に関するゲノムが選択的に残ったから影響を受けていると説明するのかと思います。ある時に集団として有利なゲノム上の選択結果が、環境変化が起こった時など各々の個体にどう影響を与えるのかの将来の予測は、難しいとは思いますができると有用かと思います。
* Klunk, J. et al. , Nature https://doi.org/10.1038/s41586-022-05349-x (2022).
**この時期、イタリアではウイルス出血熱も流行っていたという説もあります。https://www.jsvetsci.jp/veterinary/zoonoses/159.php